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東京家庭裁判所 昭和42年(家)66号 審判

申立人 朴全羅(仮名) 外一名

事件本人 山本一(仮名)

主文

申立人らが事件本人を養子とすることを許可する。

理由

一、申立人らは、主文と同旨の審判を求め、その事由として述べるところの要旨は、

1  申立人朴全羅は昭和一八年二月頃日本に渡航し、法政大学卒業後、日本に居住する中華民国人であり、昭和二九年六月頃、同様中華民国人で昭和一八年二月頃日本に渡航し、以来日本に居住する申立人周華と婚姻した。

2  事件本人は、山本正二およびその妻山本笑子の間の長男として昭和四一年七月二二日出生した日本国籍を有する未成年者である。

3  申立人らはその間に実子がなく、養子をほしく思い昭和四一年夏頃世田谷児童相談所に養子のあつせん方を依頼したところ、同年一一月頃同相談所係官から当時母が所在不明で、監護教育に困つた父山本正二から台東児童相談所を通じ養護施設育秀会に委託されていた事件本人を紹介され、事件本人と面接し、気に入つたので、父山本正二の承諾をえて同年一二月一五日から事件本人を引き取り、爾来監護養育している。

4  かような訳で、申立人らは正式に事件本人と養子縁組をして自分らの養子としたく、本件申立に及んだ

というにある。

二、審案するに、本件記録添付の戸籍謄本、外国人登録証明書、家庭裁判所調査官永井輝男および家庭裁判所調査官補菅原荘介の共同調査報告書、並びに申立人両名および山本正二に対する各審問の結果によれば、右一の1ないし3に記載どおりの事実を認めることができる。

三、右認定の事実からすると、養親となるべき者がいずれも中華民国人であり、養子となるべき事件本人は日本人であつて、本件はいわゆる渉外養子縁組事件であるので、まず、その裁判権および管轄権について考察するに、養子となるべき事件本人が東京都に住所を有する日本人であり、申立人らも中華民国人ではあるが東京都に住所を有しているので、本件養子縁組については日本の裁判所が裁判権を有し、かつ、当家庭裁判所が管轄権を有することは明らかである。

四、次に、本件養子縁組の準拠法について考察するに、日本国法例第一九条第一項によると、養子縁組の要件については、各当事者につき、その本国法によるべきものであるから、本件養子縁組の要件には養親たるべき申立人らについては、その本国法たる中華民国法、養子たるべき事件本人についてはその本国法たる日本法がそれぞれ適用されることになる。

五、そこで本件養子縁組の要件を中華民国民法および日本国民法によつて審査する。

まず、日本国民法(同法第七九二条ないし条八一七条)と同様に、中華民国民法も養子制度を認めているので(同法第一〇七二条ないし条一〇七九条)、本件養子縁組を成立させることが可能である。

また、養子縁組の成立には、中華民国民法によれば、書面をもつてなすことのみが要求され(同法第一〇七九条)、日本国民法の如く、未成年養子縁組が成立するために、裁判所の許可(同法第七九八条)を要しない。しかしながら、養子縁組の成立のため裁判所の許可を要するかどうかの問題は、養親たるべき者の側、養子たるべき者の側双方に関する成立要件と解されるから、養子たるべき者が日本人である本件養子縁組については、日本国民法によつて家庭裁判所の許可が必要であるというべく、したがつて、当家庭裁判所が本件養子縁組を審査して許可不許可を決することは、適法である。

つぎに日本民法は養親と養子との間には、一定の年齢差を要求していないが、中華民国民法は養親は養子より二〇歳以上年長でなければならないとする(同法条一〇七三条)。この点も養親たるべき者の側、養子たるべき者の側双方に関する成立要件と解され、養親たるべき者がいずれも中華民国人である本件養子縁組については、中華民国民法の要求する右の年齢差の要件を充たすことを必要とするが、本件養子縁組では、養子たるべき者が七月、養親たるべき者の一方が四一歳、他方が四三歳であるので、この要件を充たしていることは明らかである。また、中華民国民法では養親たるべき者が夫婦である場合、共同で縁組をすることを要する(同法第一〇七四条)こと、日本国民法と同様であるが、(同法第七九五条)、この要件は専ら養親たるべき者側に関する要件であり、本件養子縁組の場合、養親たるべき申立人両名が共同で縁組をするので、この要件を充たしている。更に日本国民法によれば、養子となるべき者が一五歳未満であるときは、その法定代理人が、これに代わつて縁組の承諾をすることになつているが(同法第七九七条)、中華民国民法では、とくにこの点につき規定するところがない。

しかしながら、この養子縁組についての法定代理人等の代諾ないし父母等の同意の問題は、専ら養子となるべき者側に関する要件と解され、したがつて養子が日本人である本件養子縁組については、日本国民法の定めるところに従うべきであり、前記認定の如く、事件本人の法定代理人山本正二(もう一人の法定代理人山本笑子は所在不明で親権を行使しえないので、民法第八一八条第三項により、山本正二のみの代諾で足りるものと解せられる。)が代諾しているのであるから、本件養子縁組は、この要件をも充足していることは明らかである。

六、以上の如く、中華民国民法および日本国民法によつて審査するに、申立人らが事件本人を養子とすることには何等妨げとなるべき事情はなく、しかも本件養子縁組の成立は前記認定の事実および家庭裁判所調査官永井輝男、家庭裁判所調査官補菅原荘介の共同調査報告書によつて事件本人の福祉に合致するものと認められるので、申立人らが事件本人を養子とすることを許可することとし、主文のとおり審判する次第である。

(家事審判官 沼辺愛一)

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